根本原因=ヒューマンエラー?
投稿日:2023年12月27日
カテゴリー:豆知識
投稿者:
J(ジェイ)
正確さが求められるマニュアル制作において、「ミスやエラー」が怖いと思う人も多いかもしれません。
どんな仕事においてもエラーは非難の対象になりやすいため、できるだけ避けたいものです。しかし、そのエラーが起こったとき、それはエラーを起こした「人」が本当に悪いのでしょうか。
認知科学者であり人間中心設計のアプローチを提示したDon Norman氏は、
自身の著作のなかで、エラーが起こるとき、多くの場合、仕組みやデザインに非がある (Norman, 2013) と述べています。
そう、人間は機械と異なり、正確な行動が苦手であり、エラーは至るところで起こるのがむしろ自然なことなのです。
よって、エラーが起こってもどこかで歯止めがかかる、もしくはそもそものエラーが起こらないような「仕組み・デザイン」を設計することが重要なのだという主張です。この考えには大いに共感します。
マニュアルを制作するうえでは進捗管理が欠かせません。
細かいことですが、製品開発のプロセスに合わせていくつかのキー日程を目指して工程を進めていき、各工程が完了したタイミングで日付を入力するというワークフローがよくあります。
そんなとき、この「日付を入力して記録する」という簡単なことが意外に抜け落ちるのです。
記録用のファイルを開かねばならないために、後回しにしてうっかり忘れる、正しく入力したつもりが間違った日付を入力してしまった。そんな小さなエラーがたくさん起こります。
エラーを起こした人を責めるのではなく、仕組みを変えるとしたらどんなことができるでしょうか。
タスク完了時には、関係者へメールなどを送るワークフローがセットになっていることが少なくありません。
管理システム上の、あるボタンを押すと、当日の日付が自動で入力されて、さらに必要なメールアドレスと定型文が全て入力された状態で自動的にメーラーが立ち上がったらどうでしょう。
作業も簡略化され、日付入力を忘れることもなさそうです。
入力がらみで言うと、全角・半角の使い分けというのも場合によってはやっかいです。
よく「全角で入力してください」と指定のある住所入力欄がありますが、数字は全角にしたけれどもハイフンが半角のまま、などの気づきにくいエラーが起こっているせいでなかなか先に進めないことがあります。
確かに「全角で入力」と指示されているので、その通りに入力しない人間に落ち度があるようにも思えますが、数字、記号、アルファベットなど半角と全角で同じ情報が入力できる場合、意図しない方で入力される可能性があることは容易に想定できます。
そうであるなら、半角が入力されてしまったら自動的に全角に変換されるような仕組みが最初から備わっていれば、エラーも出ずに気持ちよく使えますよね。
また、誤変換や規定外の用語を防ぐためには、ATOK辞書などの活用が有効です。
これもエラーを起こす人間の特性を踏まえた仕組みの1つだと言えます。漢字ではありませんが、道路標識の英語表記でPort(港)であるべきところがPoot(おなら)となっているとんでもない誤表記の標識を約30年に渡って使い続けていた、というネットニュースを見たのも記憶に新しいものです。
これも、しかるべき仕組みがあったのなら、簡単に防げたのかもしれません。
マニュアル制作において、コンテンツの中身をわかりやすく設計することはもちろん重要ですが、ワークフローや周辺業務の仕組みについてもしっかり設計することが、効率的で正確な制作につながります。
今後は、生成AIなどの活用で、仕組みを大きく変えていくことも可能かもしれません。
これについては我々も日々研究中です。
※参考文献
Norman, Don. The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition. New York: Basic Books, 2013