生成AIとマニュアル作成の未来【新春特別コラム】
投稿日:2024年01月24日
カテゴリー:シリーズコラム
投稿者:
吉田 愛
いつもお世話になっています。
『マニュアル制作のトリセツ』メールマガジン担当の吉田 愛です。
2023年を振り返ってみると、
「ChatGPT」や「Google Bard」といった生成AIの躍進が目覚ましく、
実際に使ってみた方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、「生成AIとマニュアル作成の未来」と題して、
生成AIの基本的な知識から、今後、生成AIがもたらすマニュアル制作への活用などを、
つらつらと語っていきたいと思います。
文量が多いので、お時間のあるときにじっくりと読んでみてくださいね!
1. そもそも、AIってなに?
2. 生成AIを使ったサービスには、どのようなものがあるか?
3. マニュアル制作業務への活用
4. 生成AIのリスクとは?
5. まとめ|生成AIとマニュアル作成の未来
1. そもそも、AIってなに?
◆ AIとは
そもそもAIとは、
AI(Artificial Intelligence:人工知能)の略称で、
「人が実現するさまざまな知性を人工的に再現するもの」
という概念を指します。
AIというと、SF映画やアニメ作品などに登場するような、
あらゆる事柄に対して最適な答えを導き出すことができる汎用性の高い能力を持ったもの、というイメージがあるかもしれません。
このような汎用的なAIのことを、「強いAI」と呼びます。
しかし、現状「強いAI」はあくまで理論的な概念であり、実現の見通しは立っていません。
昨今急速に発展しているのは、特定の分野に対して特化したAIで、
前述の「強いAI」に対して「弱いAI」といいます。
例えば、
・文章を書く
・イラストを描く
・チェスを指す
といったように、
ある事柄のみに機能を限定・特化している点が大きな特徴です。
弱いAIは、その用途や役割に応じて、生成AI、識別AIといったカテゴリーに分けられます。
生成AI・・・学習データを元に、新しいデータを生成するAI
識別AI・・・学習データを元に、インプットした情報の識別を行うAI
今回のコラムでは、この「生成AI」を中心にお話しします。
◆ 生成AIの得意・不得意
生成AIの活用について考えをめぐらす前に、まずは生成AIの得意・不得意を整理してみます。
以下はその一例です。
【得意】
・大量のデータを元に推論を導く
・数値化されたデータで、特定の条件のもとに結果を予測する
・画像や音声など、あらゆるデータを分析する
など
【不得意】
・学習データが少ないと合理的な推論ができない
・複数の分野にまたがる仕事が苦手
・回答の再現性が低い
(同じ質問を投げても同じ回答が返ってこない場合がある)
など
(生成AIは進歩が目覚ましい分野であり、いずれこのような 「不得意」もどんどん解消されていくかもしれませんね)
◆ AIの学習方法
生成AIは、学習データを元に、
「演繹推論(えんえき-すいろん)」や、
「帰納推論(きのう-すいろん)」などの手順を用いて回答結果を生成します。
演繹推論・・・一般的な前提と事実を掛け合わせて、結論を出す方法。
(例:2024年は辰年+辰年の次は巳年=2025年は巳年)
帰納推論・・・複数の物事や事例から共通点を見つけ、結論を出す方法。
(例:おせち料理はおいしい+お餅はおいしい=お正月はおいしいものが食べられる)
そのため、学習データの総量が少ないと情報の正確性に大きく影響が出てしまいます。
性能の高いAIを育成するためには、大量のデータと機械学習が必要不可欠です。
機械学習の方法としては以下のものが代表的です。
教師あり学習:
AIに「AはAである」という正解のデータを与える学習方法。
教師なし学習:
AIに正解を与えず規則性などの共通項を見つけさせる学習方法。
強化学習:
試行錯誤を通じて望む結果を得られるまでリトライさせる学習方法。
ニューラルネットワーク:
人間の脳を模した複数の階層で思考させる学習方法。
ディープラーニング:
ニューラルネットワークの階層を4層以上に複雑化させた学習方法。
近年、AI技術が躍進したのは、
一番下の「ディープラーニング」方式の機械学習によるところが大きいです。
ディープラーニング方式は、多層構造を活かした高い学習能力があるため、
画像認識や自然言語処理の精度が飛躍的に高まりました。
2. 生成AIを使ったサービス
AIについての基本的な知識をざっとご紹介したところで、
次に、どのような生成AIサービスがあるのかを見てみましょう。
【テキスト生成系AI】
ユーザーが質問テキストを入力すると、
AIが質問の内容を解析して、テキストで回答を自動で生成する、というものです。
また、AIにプログラムコードを入力し、間違い(エラー)のある個所を
指摘してもらう、といった使い方が可能なものもあります。
→ ChatGPT、Google Bardなど
【画像生成系AI】
ユーザーがどのような画像を生成してほしいかを入力すると、
その内容に応じてAIがオリジナルの画像を自動で生成する、というものです。
複数枚の画像を生成し、その中から最も希望したイメージに近いものを選ぶと、
そのイメージに近い派生画像を新たに生成する、といった方法で
精度を上げていくことができるサービスもあります。
→ Stable Diffusion、Adobe Fireflyなど
【音声・音楽生成系AI】
音声データを送信すると、
AIが音声データを分析して新しい音声データを生成するものや、
ユーザーのリクエストに応じて
オリジナルの音楽を生成したりするものなどがあります。
→ VALL-E、Ecrett Musicなど
【動画生成系AI】
テキストで生成したい動画のイメージを入力すると、
その内容に応じた動画を生成する、といったものです。
→ Make-a-Video、Phenakiなど
ここで紹介したものは生成AIサービスのほんの一部ですが、あらゆるところで耳にするようになった「ChatGPT」以外にも、数多くの生成AIサービスがあるのがわかりますね。
生成AIサービスは、無料トライアルが可能なものが多いので、まずは一度、気になったものを触ってみてはいかがでしょうか?
3. マニュアル制作業務への活用
さて、ここからが本題です。
さまざまな用途への活用が見込める生成AIですが、マニュアルの制作業務にもたらすソリューションとは、一体どのようなものなのでしょうか?
せっかくなので、有識者の「ChatGPT先生」に聞いてみました。
吉田:
「マニュアルの制作過程において、ChatGPTなどの生成AIによる制作アシストは
どのようなことが考えられますか?」
ChatGPT先生:
「マニュアルの制作過程において、ChatGPTなどのAIが制作アシストに使用される場合、以下のような点が考えられます」
【制作アシストの可能性】
① 内容生成と構造化:
AIはマニュアルの内容を生成し、テキストを構造化するのに役立ちます。
特に大量の情報を整理して適切な順序で提示する場合に有用です。
② 文体と表現の向上:
AIは自然言語生成のモデルを使用して、クリアで読みやすい文体や表現を提案することができます。
これにより、読者に対する理解が容易になります。
③ 用語集の作成:
AIは特定の専門用語や業界用語を整理し、用語集を作成するのに役立ちます。
これにより、読者が正確な情報を簡単に見つけることができます。
④ フィードバックの提供:
ユーザーが入力した内容に対してAIがフィードバックを提供し、不足している情報や矛盾がないかを確認することができます。
吉田:
「なるほど。弊社がマニュアル制作業務の際に行っている作業を、AIがやってくれるのですね。では、生成AIを使ったマニュアル制作業務のメリットについて教えてください」
ChatGPT先生:
「マニュアルの制作業務に生成AIを使用される場合、以下のようなメリットが考えられます」
【制作アシストのメリット】
① 効率向上:
AIのアシストにより、マニュアルの制作プロセスが迅速化され、生産性が向上します。
② 一貫性の確保:
AIは一貫性のある表現や用語を提案し、文体の統一性を保つことができます。
③ 初稿のサポート:
初稿の作成時にAIがアイデアを提供し、膨大な情報から適切な内容を抽出するのに役立ちます。
吉田:
「すごいですね。マニュアルの一貫性や制作プロセスの効率化は、マニュアル制作をするうえでは欠かせない要素なので、そこをカバーできるのは魅力的に感じます」
吉田:
「ちなみに、生成AIを使うデメリットについてもご教授願えますか?」
ChatGPT先生:
「もちろんです。マニュアルの制作業務に生成AIを使用される場合、以下のようなデメリットが考えられます」
【制作アシストのデメリット】
① 文脈理解の限界:
AIは文脈を理解する能力に制限があり、特定の業界や専門知識が必要な場合、正確な情報を提供できない可能性があります。
② 人間の判断の必要性:
AIは提案を行いますが、最終的な判断は人間が行わなければなりません。
特に感情や複雑なコミュニケーションに関わる場合、人間の洞察が必要です。
③ セキュリティとプライバシーの懸念:
機密情報やプライバシーに関わる内容が含まれる場合、AIを利用することでセキュリティ上の懸念が生じる可能性があります。
吉田:
「なるほど…情報の整理は得意ですが、情報の取捨選択や最終ジャッジは人に依存するわけですね。」
ChatGPT先生:
「総じて、AIによる制作アシストは効率化や一貫性の向上など多くのメリットがありますが、人間の判断や文脈理解の限界など、デメリットも注意が必要です。成功するためには、AIをツールとして活用し、人間との協力によって最良の結果を得ることが求められます」
吉田:
「本日はお忙しい中、ありがとうございました」
ChatGPTに投げかけたマニュアル制作業務に関する質問とその返答を、対談っぽく整えてご紹介してみました。
色々な点について触れていますが、業務マニュアルや、製品マニュアルの制作にあたっては、
機密情報や開発情報などが含まれることがあるため、やはりセキュリティ上の懸念は大きなネックになりそうです。
また、生成される文の品質(正確性・再現性)が担保できないので、
「今日から生成AIに原稿制作を丸投げするぞ!」
というわけにはいきません。
一方で、デメリットをきちんと念頭に置いたうえで、得意な部分を有効活用することは期待できそうです。
私の場合、生成AIを使った業務効率化を昨年から進めています。
例えば、メールマガジンのタイトル案(キャッチコピー)などを考えるとき、
今まではうんうんうなりながらアイディアを出していました。
このような一番時間がかかるアイディア出しに生成AIを取り入れるのは、とても有効です。
まず、目的やキーワードを定型化したプロンプト(生成AIへの命令文)に放り込み、
生成AIに10個くらい原案を考えてもらいます。
その中から気に入ったものをベースに、人間(私)が細部を詰めて仕上げる、
という方法です。
この方法を、吉田 愛(AI)システムと呼びます。…冗談です。
このように、アイディア出しなどドラフト(下書き)の段階であれば、
現状の生成AIでも十分活用できると考えています。
セキュリティについても、コアな情報を流し込まなければクリアできるのではと考えています。
(あくまで個人の見解ですが…)
4. 生成AIのリスクとは?
生成AIを利活用する上での注意点として、
生成AIは、ユーザーからのリクエストに対し、事実確認をしないまま返答します。
たとえ事前にインプットされた学習データの中に、
質問へのクリティカルな答えがなくても、もっともらしい言葉で回答しようとします。
簡単にいえば、AIにウソをつかれてしまう、ということです。
この現象のことを「ハルシネーション」といいます。
たとえば、辞書でわからない用語を調べるような感覚で、生成AIに用語の解説を質問すると、とんでもないウソを吹き込まれる可能性があるわけです。
しかも、「もっともらしい言葉」で生成されるためにぱっと読んだだけでは真実かどうかわかりにくい場合も多く、扱い方を誤ると非常に危険です。
AIの活用にあたっては、このようなリスクやデメリットをきちんと理解し、
「人間がAIを上手に使いこなす」という危機管理の意識を持たねばなりません。
政府は、『人間中心のAI社会原則』にてAIを利用する際に守るべき7個の原則を示しています。
以下、各原則に関わる部分を抜粋してみました。
1. 人間中心の原則
AIが活用される社会において、人々が AIに過度に依存したり、AIを悪用して人の意思決定を操作したりすることのないよう、我々は、リテラシー教育や適正な利用の促進などのための適切な仕組みを導入することが望ましい。
2. 教育・リテラシーの原則
AIに関わる政策決定者や経営者は、AIの複雑性や、意図的な悪用もありえることを勘案して、AIの正確な理解と、社会的に正しい利用ができる知識と倫理を持っていなければならない。AIの利用者側は、AIが従来のツールよりはるかに複雑な動きをするため、その概要を理解し、正しく利用できる素養を身につけていることが望まれる。
3. プライバシー確保の原則
AIを前提とした社会においては、個人の行動などに関するデータから、政治的立場、経済状況、趣味・嗜好等が高精度で推定できることがある。これは、重要性・要配慮性に応じて、単なる個人情報を扱う以上の慎重さが求められる場合があることを意味する。
4. セキュリティ確保の原則
少なくとも現在想定できる技術の範囲では、希少事象や意図的な攻撃に対して AI が常に適切に対応することは不可能であり、セキュリティに対する新たなリスクも生じる。社会は、常にベネフィットとリスクのバランスに留意し、全体として社会の安全性及び持続可能性が向上するように務めなければならない。
5. 公正競争確保の原則
新たなビジネス、サービスを創出し、持続的な経済成長の維持と社会課題の解決策が提示されるよう、公正な競争環境が維持されなければならない。
6. 公平性、説明責任及び透明性の原則
公平性及び透明性のある意思決定とその結果に対する説明責任(アカウンタビリティ)が適切に確保されると共に、技術に対する信頼性(Trust)が担保される必要がある。
7. イノベーションの原則
Society 5.0を実現し、AIの発展によって、人も併せて進化していくような継続的なイノベーションを目指すため、国境や産学官民、人種、性別、国籍、年齢、政治的信念、宗教等の垣根を越えて、幅広い知識、視点、発想等に基づき、人材・研究の両面から、徹底的な国際化・多様化と産学官民連携を推進するべきである。
(「内閣府:人間中心のAI社会原則」より一部抜粋)
また、直近の話をすると、この「人間中心のAI社会原則」を踏襲して、
「人間中心」や「安全性」など10の原則を明記した、
国内事業者向けのガイドライン「AIガイドライン」の策定が政府及び有識者で進められています。
生成AIを社内事業の一部として扱うには、
このガイドラインを参照のうえ、詳細な社内ルールなどを整え管理・運用する必要がありそうです。
5. まとめ|生成AIとマニュアル作成の未来
ここまで、生成AIのマニュアル作成における活用方法や、注意すべきリスクなどについて、長々とお話ししてきました。
内容をまとめてみましょう。
◆ ディープラーニング技術の確立により、
生成AIをはじめとする単一機能に特化した「弱いAI」が急速に進歩した
◆ 生成AIを用いたマニュアル制作の活用方法
→ 内容生成と構造化、文体と表現の向上、用語集の作成、フィードバックの提供など
◆ 生成AI活用のメリット
→制作プロセスの迅速化による生産性の向上が見込める
◆ 生成AI活用のデメリット
→最終的な判断は人間が下す必要性がある、情報セキュリティの懸念がある
◆ 生成AIを企業活動に取り入れるには、社内におけるルールの策定が重要
→人間中心のAI社会原則、AI事業者ガイドライン
AIなどの最新技術の進歩によって、どんどん便利な世の中になっていきますが、
やはり、最終的にそれを使うのは「人間」です。
今回のコラムを書くにあたって、さまざまな資料を読み漁った私ですが、
AI技術が進む一方で、人間が技術に振り回されないよう、
日々、学んでいくことが重要であると感じました。