現地チェック(ローカルレビュー)との付き合いかた
投稿日:2026年02月25日
カテゴリー:翻訳・海外言語
投稿者:
J(ジェイ)

海外展開を前提とした製品マニュアルを制作する際、多くの場合、現地担当者による多言語マニュアルのチェック工程が入ります。
もちろん、翻訳時に用語集や翻訳メモリなどを活用することで一定の翻訳品質が担保された状態ではありますが、製品の仕様を理解したメーカーの担当者が最終確認をすることで、より確かな多言語マニュアルの品質確保につながります。
ところが、この現地チェックで往々にして直面する課題があります。
それが 「現地担当者によるチェックのばらつき」 です。
フィードバック量と質が極端に変わる
多言語現地チェックでは、言語ごとに担当者の姿勢やレビューの深さが大きく異なり、フィードバックの量や質に差が出やすい傾向があります。
例えば、ある言語の担当者からは全く修正依頼がないが、ある言語の担当者からは、用語の使いかただけでなく、文章構成や言い回しに至るまで非常に細かい、大量の修正案が返ってくることがあります。
修正依頼がない場合は、「高品質の翻訳になっていた」とも解釈できるので、制作者としては一安心するところですが「大量の朱書き」が返ってきたときは、何が悪かったのかと頭を抱えることになります。
一見すると「そこまで見てくれるのはありがたい」とも言えますし、実際に熱心なレビューは心強い面もあります。
しかし、品質管理の観点で見ると、必ずしも望ましい状態とは限りません。
基軸言語のマニュアル制作の編集者(ライター)は、文章を自由に書いているのではなく、過去の取扱説明書の表現、製品群としての統一された言い回しなど、複数の条件を踏まえて、マニュアル全体として最適となるように文章を書いています。
多言語も、本来はこれと同じ観点で仕上げる必要があります。
現地チェックが新たな問題を生むケースがある
ところが、さきほどのような大量の修正指示の中には、下記のような課題を含んだものが多く見られます。
• 用語集にある用語とは違う表現で修正が入る
• 修正後の文章が、他ページの表現と一致しない
• 好みによる言い換え(と思われる)修正指示が大量にある
このような修正は、修正箇所単体では自然に見えても、マニュアル全体の品質を考えたときに逆効果になることがあります。
また、大量に修正が入ることで、制作スケジュールが圧迫されることもあります。
また、修正理由がわからないまま修正すると今後の改善方法が定まらず、次の制作でまた同じような修正依頼を受ける可能性があります。
ここで難しいのは、現地チェックを依頼する多くの場合、依頼側にその言語のネイティブ話者がおらず、レビュー結果の正当性や緊急性を判断しづらいということです。
課題回避には「前準備」が不可欠
このような現地チェックに関する問題を回避するためには、まず「どんな人」が「どんな観点で」「何をチェック」するのかを事前に明確にすることが重要です。
1. チェックの担当者を決める
理想的なのは、マニュアルの構造や用語・表現統一の重要性を理解している担当者を立ててチェックしてもらうことです。
ただ、現実には現地販売会社の担当者に他の業務の片手間にチェックをしてもらう、というようなことも多いと思われます。
このような場合にも、以下のチェックの観点やルールを共有しておくことで、一定の標準化がはかれます。
2. チェックの観点を決める
まず、レビューで確認してほしい観点を整理します。
例えば、次のような点です。
• 重大な誤りを優先して指摘する
• 現地市場に適さない表現や誤解を生む可能性のある表現を指摘する
あくまで、用語統一などは翻訳をする段階で行っている前提なので、一言一句までをチェックしてもらう必要はないことがほとんどです。
3. チェックのルールを決める
次に、レビューの進め方やルールを明確にします。
下記は一例です。
• 用語は用語集に従う(何らかの理由で用語が適切でないと判断される場合、その理由を連絡してもらう)
• 言い換えは必要性がある場合のみ行う
• 優先度の高い修正から指摘する
• 修正のレベルを明確にする
A:誤記・誤訳・意味が変わるレベルの致命的修正(修正必須)
B:文法・自然さの改善(修正推奨)
C:ニュアンスや好みの表現変更(修正任意)等
このようなルールを設けると、レビューのばらつきをある程度抑えることができますし、現地チェックの内容が、「なんだかわからないけど指摘された」状態から、プロジェクトとして処理できる情報に変わります。
可能であれば、レビュー担当者とオンラインで顔合わせを行い、レビューの意図や背景を直接伝えておくと効果的です。
事前に認識を合わせておくことで、その後のやり取りもスムーズになります。
まとめ
すべての準備をしっかり行ったうえで現地チェックをすることは、様々な制約の中難しいかもしれませんが、現状と照らし合わせて、一番負荷がかかっている課題を解消するところから行動してみることが大切です。
海外展開における現地チェックは非常に重要ですが、運用を誤ると意図せぬ品質低下や制作工程の混乱につながる可能性があります。
チェック依頼者の要望とチェック者の役割を明確にすることで、双方が必要以上の時間をかけず、適切なチェック体制を築けるよう、運用ルールをしっかり定めて実行していくことが最終的に品質の高い多言語マニュアルにつながるのではないでしょうか。


