ローマ字表記のトリセツ|2分でわかる表記ルール
投稿日:2021年11月05日
カテゴリー:解説記事
投稿者:
マッサン
ローマ字表記には、訓令式とヘボン式と呼ばれる2つの表記ルールが存在します。
パスポートの申請などで自分の名前を書く時に、
どちらの表記で書くのか、悩んだ経験はありませんか?
この記事では、ローマ字の基本的な書き方や、
訓令式とヘボン式の違いについて触れ、
どういった時に、どちらのルールに則るべきなのかをご説明します。
1. ローマ字表記の基本ルール
まずは、ローマ字表記の基本ルールからおさらいしましょう。
ローマ字は日本語の母音である「あ・い・う・え・お」を
アルファベットの近似音である、「a・i・u・e・o」の各文字に置き換えて表記します。
「母音字」
例:ア→a,イ→i,ウ→u
そして、ア行を除いた、その他50音と濁音(ガ行など)・半濁音(パ行)については、
母音字の先頭に行子音に対応する文字を加えることで表記します。
※ただし、例外として「ん」は「n」で表記します。
「子音字」+「母音字」
例:カ→ka,ガ→ga,パ→pa
拗音(ようおん)、つまりは「きゃ・きゅ・きょ」などのねじれた音には、子音字と母音字の間に「y」をはさんで表記します。
この時の母音字には、拗音を発音したときに最後に残る母音を表記します。
「子音字」+「y」+「母音字」
例:キャ→kya,キュ→kyu,キョ→kyo
さて、ローマ字の基本ルールについて簡単に解説いたしましたが、
日頃、タイピングをされる方には、身近で当たり前の内容だったかもしれませんね。
ちなみに、ローマ字で氏名を記載する場合、
欧米諸国の「名→姓」の順に倣って記載することが慣例とされていましたが、
2019年10月25日に国から発表された『公用文等における日本人の姓名のローマ字表記について』では、
“グローバル社会の進展に伴い,人類の持つ言語や文化の多様性を人類全体が意識し,生かしていくことがますます重要となっており,このような観点から,日本人の姓名のローマ字表記については,「姓―名」という日本の伝統に即した表記としていく”
とされ、2020年以降の公用文など公的な書類においては、
原則として「姓→名」の順で記載されるようになりました。
また、姓と名を明確に区別する際には、姓を全て大文字で表記するとされています。
以下は、氏名表記の例です。
日本語表記 | 吉田 愛 |
以前のローマ字表記 | Ai Yoshida |
2020年以降の公用文の表記 | Yoshida Ai |
2020年以降の公用文の表記(姓名を区別する場合) | YOSHIDA Ai |
とはいえ、これらのルールが適用されるのは公用文の範囲であることから、
たとえば、自分の名刺には「名→姓」順で入れたいと思うなら、
そのように記載したとしても構わないのです。
では、続いてローマ字の表記体系である、
「訓令式」と「ヘボン式」について見てみましょう。
2. 訓令式とは?
それでは、本題です。
そもそも訓令式とは、文部科学省「ローマ字のつづり方」内閣告示第一号で示されている、ローマ字の表記ルールのことを指しています。
以下の表は文部科学省が公開している内容を書き起こしたものです。
ローマ字のつづり方
第1表〔( )は重出を示す。〕 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
a | i | u | e | o | |||
ka | ki | ku | ke | ko | kya | kyu | kyo |
sa | si | su | se | so | sya | syu | syo |
ta | ti | tu | te | to | tya | tyu | tyo |
na | ni | nu | ne | no | nya | nyu | nyo |
ha | hi | hu | he | ho | hya | hyu | hyo |
ma | mi | mu | me | mo | mya | myu | myo |
ya | (i) | yu | (e) | yo | |||
ra | ri | ru | re | ro | rya | ryu | ryo |
wa | (i) | (u) | (e) | (o) | |||
ga | gi | gu | ge | go | gya | gyu | gyo |
za | zi | zu | ze | zo | zya | zyu | zyo |
da | (zi) | (zu) | de | do | (zya) | (zyu) | (zyo) |
ba | bi | bu | be | bo | bya | byu | byo |
pa | pi | pu | pe | po | pya | pyu | pyo |
第2表 | ||||
---|---|---|---|---|
sha | shi | shu | sho | |
tsu | ||||
cha | chi | chu | cho | |
fu | ||||
ja | ji | ju | jo | |
di | du | dya | dyu | dyo |
kwa | ||||
gya | ||||
wo |
この「ローマ字のつづり方」は第1表・第2表の二部構成となっています。
まえがきによると、
1 一般に国語を書き表わす場合は、第1表に掲げたつづり方によるものとする。
2 国際的関係その他従来の慣例をにわかに改めがたい事情にある場合に限り、第2表に掲げたつづり方によつてもさしつかえない。
ということです。
第1表の内容としては、前項の基本ルールに基づいていますね。
ちなみに、第2表については後述のヘボン式を、慣用として認めますという内容を指しています。
3. ヘボン式とは?
大阪には日本橋という地名があります。
これをひらがなにしますと、「にっぽんばし」と書きます。
(※ちなみに東京の日本橋は、「にほんばし」です。あしからず。)
これを訓令式のローマ字で表記するなら、
「Nipponbasi」が正解なはず。
ところが、実際の駅名表示は「Nippombashi」となっています。
これって間違いじゃないの?と思うかもしれません。
これは、先ほどご説明した文化庁の示す訓令式とは異なる、
「ヘボン式」のローマ字表記が用いられているためです。
そもそも、ヘボン式とは、ジェームス・カーティス・ヘボン(James Curtis Hepburn)という方が、江戸時代末期から明治にかけて日本に広めた、ローマ字の表記方法です。
余談ですが、このヘボンという名前、現代のカタカナ表記では、「ヘプバーン」や「ヘップバーン」などと表記されることが多いのですが、当時の日本人向けに口語に近い「ヘボン」と自ら名乗っていたそうです。
さて、ヘボン式においても、基本のローマ字表記は先ほど述べた訓令式と大きくは変わりません。
しかし、主だったところでは下記のように表記方法が異なっています。
「し」→「shi」
「ち」→「chi」
「つ」→「tsu」などがそうです。
また、原則として撥音(はつおん)は「ん」→「n」と表記しますが、
「ん」の後にb、p、mの子音が続くときはnの代わりに「m」を使用します。
>(※その他の詳細については先ほどの「ローマ字のつづり方」第2表をご参照ください)
先ほどの訓令式と比べ、より英語の発音感覚に近い表記となっていますね。
言い換えると、英語圏の方にとってはヘボン式の方が、元々の日本語の発音に近い読み方ができます。
これが、訓令式が取り決められた後でも、広くヘボン式が使われている理由のひとつです。
4. 訓令式とヘボン式、どっちが正解?
訓令式は小学校で最初に習うローマ字です。
そして、文化庁が定めているオフィシャルな表記体系でもあります。
しかし、国土地理院や外務省の旅券法施行規則などでは、
原則としてヘボン式が採用されています。
ですので、パスポートの申請等での人名はヘボン式で記載します。
また、そのような取り決めの無いドキュメントでは、
訓令式またはヘボン式のいずれかの表記ルールに則るのがよいのかについては制作者の好みになりますが、なにより大事なことは、1つのドキュメントで表記を統一することです。
同じドキュメント内で訓令式で表記されていたり、ヘボン式で表記されていたりと、表記ゆれがないようにすることが肝心です。
もし、同じドキュメントの中で表記が揺れていれば、読み手からの不信感を招き、ブランディングを下げることにもなりかねません。
表記ゆれを防ぐには、ドキュメント制作のガイドライン、スタイルガイドなどを制定し、その際、「ローマ字表記は訓令式で表記する」などルールを決めておけば、表現をそろえることができるでしょう。
また、校正支援ツールにユーザー辞書として登録し、校正でチェックできるようにしておけば、用語の不統一を避けることが期待できます。
当社では、60年以上のマニュアル制作実績で培ったノウハウから、
社内制作ドキュメントの品質向上を目的とした、ドキュメント制作ルールの作成・管理・運用・教育といった、システムづくりのサポートも行っております。
ご興味のある方は、ぜひご覧ください。
ちなみに、「マニュアル制作のトリセツ」では、
日本語の表記ルールについては文化庁が公表している日本語表記ルールをとりまとめた、
無料のお役立ちダウンロードを公開しております。
全6章立ての資料となっていますので、ぜひご参考ください。