長音記号のトリセツ|2分でわかる表記ルール
投稿日:2019年04月01日
カテゴリー:解説記事
投稿者:
マッサン
長音記号(ー)とは、外来語をカタカナで表記する際に
一字前の音を伸ばすことを示す方法で、日本語の表記記号(役物)のことを指しています。
長音記号以外にも長音符、長音符号、音引きなど、様々な呼び方がありますが、
一般的には「伸ばし棒」と呼ばれることが多いでしょう。
「コンピュータでドライバのフォルダをモニタに表示してください。」
かつて、IT 関係の取扱説明書や技術文書には、このような表現が多用されていました。
特徴は単語の末尾には長音を使わない、ということです。
ところが、最近は、このような表現が減ってきていると思いませんか?
取扱説明書に記載するカタカナ用語、長音を入れるべきか、省略すべきか、悩みどころですよね。
この記事では長音についての日本語ルールを事例をもとに解説いたします。
1. 長音(音引き)で悩んでいませんか?
まずは、実験です。Windows 10 で「ブラウザ」と入力して検索してみましょう。
「ブラウザーのアドオンの管理」、「既定のWeb ブラウザーを選ぶ」など、これらの表示は長音ありで統一されています。なぜなら2008年にマイクロソフト社が用語の表記統一のため、長音を付けるガイドラインを制定しました。
それに伴って現在は長音ありが主流になりつつあります。
ではなぜ、IT業界では今まで長音を省略していたのでしょうか?
2. 起源はJIS にあり
元々、IT 関係で長音が省略されていたルーツは、JIS(日本工業規格)にある、と考えられています。
JIS(日本工業規格)の「Z8301」は、その附属書 G において、「文章の書き方,用字,用語,記述符号及び数字」を規定しています。
そこには、長音を省略するためのルールが規定されています。
基本ルールは次の2 点です。
①その言葉が 3 音以上の場合には,語尾に長音符号を付けない。
• ブラウザ、プリンタ、スキャナ、ドライバ、フォルダ、モニタなど
②その言葉が 2 音以下の場合には,語尾に長音符号を付ける。
• キー、バー、エラーなど
それでは、なぜ単語の末尾に長音を使わないようにしたのでしょうか。
それは、今ほどパソコンの性能が高くなかった時代に、少しでもドキュメントの容量を減らしたい、印刷のコストを下げたい、というメーカー側の意図から、長音が省略されたのが始まりとされています。
また、長音記号が語尾にあると、ハイフン(―)と混同されて、誤認の原因になるからとも言われています。
(※諸説あります)
今でも、このJIS規格に則って、長音を省略するか、付けるかを決めている企業も少なくありません。
しかし、2019年に改正されたJIS規格においては、
「外来語の表記は,主として“外来語の表記(平成3.6.28 内閣告示第2号)”による。」
として長音符を省略するとした基準そのものを廃止し、内閣告示に準拠することが明記されました。
そのため、現在は長音なしから、長音ありへの移行期間であるというわけです。
では、その内閣告示第2号とは、一体どういった内容なのでしょうか?
3. 外来語の表記 内閣告示第二号
文化庁の「外来語の表記(平成3.6.28 内閣告示第2号)」では、長音について以下のルールを定めています。
3 長音は,原則として長音符号「ー」を用いて書く。
〔例〕 エネルギー オーバーコート グループ ゲーム ショー テーブル
パーティー
ウェールズ(地) ポーランド(地) ローマ(地) ゲーテ(人)
ニュートン(人)
注1 長音符号の代わりに母音字を添えて書く慣用もある。
〔例〕 バレエ(舞踊) ミイラ
注2 「エー」「オー」と書かず,「エイ」「オウ」と書くような慣用のある場合は,それによる。
〔例〕 エイト ペイント レイアウト スペイン(地) ケインズ(人)
サラダボウル ボウリング(球技)
注3 英語の語末の‐er,‐or,‐arなどに当たるものは,原則としてア列の長音とし長音符号「ー」を用いて書き表す。ただし,慣用に応じて「ー」を省くことができる。
〔例〕 エレベーター ギター コンピューター マフラー
エレベータ コンピュータ スリッパ
外来語の表記 留意事項その2(細則的な事項)|文化庁内閣告示より抜粋
ここで最も重要なルールは、
「英語の語末の‐er, ‐or, ‐ar などに当たるものは,原則としてア列の長音とし長音符号「ー」を用いて書き表す。ただし,慣用に応じて「ー」を省くことができる。」という規定です。
次の表のとおり、過去のJIS規格では長音(音引き)なしだったものが、文化庁ルールでは、すべて、長音(音引き)ありということになります。
JIS ルール | 英語のつづり | 文化庁ルール |
---|---|---|
ブラウザ | browser | ブラウザー |
プリンタ | printer | プリンター |
スキャナ | scanner | スキャナー |
ドライバ | driver | ドライバー |
モニタ | monitor | モニター |
4. どれが正解なの?
JIS ルールも、文化庁ルールも、長音の扱いについてはそれぞれ慣用を認めています。
ですから、取扱説明書を手に取った方を「ユーザ」と呼ぶことが慣用なら「ユーザ」と記載すればよく、「ユーザー」と呼ぶことが慣用なら「ユーザー」と記載すればよいでしょう。
大切なことは、表記を統一することです。
ドキュメント制作のガイドライン、スタイルガイドなどを制定し、その際、「旧JIS ルールによる」、「文化庁のルールによる」など決めておけば、表現をそろえることができるでしょう。
また、校正支援ツールにユーザー辞書として登録し、校正でチェックできるようにしておけば、用語の不統一を避けることが期待できます。
そして、継続的に品質を高めていくためには、
ドキュメント制作のルールを規定し(Plan)、ルールに従って執筆し(Do)、ルールにあっているか校正し(Check)、ルールや辞書をメンテナンスしていくこと(Action)が必要です。
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ちなみに、当サイト「マニュアル制作のトリセツ」では、
日本語の表記ルールについては文化庁が公表している日本語表記ルールをとりまとめた、
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