英語版マニュアル作成のすすめ。原文の書き方で翻訳のしやすさが変わる?
投稿日:2024年04月23日
カテゴリー:翻訳・海外言語
投稿者:
TOM
マニュアルの制作時に、
「自社製品マニュアルの英語版(多言語版)も作成したい」
というご要望をいただくことがあります。
日本語のマニュアルとして読めば普通でも、
「これをそのまま翻訳すると、 ユーザーにとって分かりにくくなってしまうな…」
という状態になっていることがよくあります。
このような場合、二つ返事で引き受けてしまう前に、もとの日本語マニュアルの文章改善についてご提案するようにしています。
AI翻訳などが発達している昨今、自社内で多言語翻訳を完結できる場面が多くなってきています。
しかし果たして、そのまま翻訳して問題ないでしょうか?
分かりづらいマニュアルになってしまっていませんか?
今回は、多言語マニュアルを作成する際に考えたいポイントについて、
基軸言語となることの多い英語に焦点を当ててご紹介します。
日本語と英語の差と、翻訳への影響
そもそも、「翻訳すると分かりにくくなる」とはどういうことでしょうか?
「言葉を日本語から英語に置き換えているだけだから、内容に変わりはないのでは?」
と思われるかもしれませんが、実はそれほど単純ではありません。
日本語と英語は、文法的に大きく異なる特徴を持っています。そのため、単純に単語を一つひとつ置き換えるという作業にはなりません。
「翻訳すると文章が分かりにくくなってしまう」というのは、言い換えると、
「英語に翻訳しにくい」ということでもあります。
まずは、日本語と英語にそれぞれどのような特徴があり、それがどのように翻訳に影響を及ぼしているのかを見ていきましょう。
日本語の特徴
①「SOV型」
日本語は「SOV型」の言語に分類されます。
私は(主語/Subject) リンゴを(目的語/Object) 食べた(動詞/Verb)
例文のように、目的語が動詞より先に配置されるのが、日本語の文の基本的な構造です。
②主語が省略できる
文脈上、主語が明らかである場合は、
(私は)リンゴを食べた。
のように、主語を省略することができます。
英語の特徴
①「SVO型」
英語は「SVO型」の言語に分類されます。
I(主語/Subject) ate(動詞/Verb) apples(目的語/Object)
日本語とは異なり、目的語は動詞の後に配置されます。
②主語を省略できない
英語では、基本的に主語を省略することがありません。
I ate apples. (「I」は省略できない)
しかも、文を読んで気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、日本語の「文脈」依存は主語だけに限ったことではありません。
英語の「I ate apples.」では、リンゴを「複数」食べたことが分かりますが、日本語の「リンゴを食べた。」では、リンゴを「いくつ」食べたのかは分かりません。
こんな短い文でも、単純な「置き換え」が難しいことが分かります。
翻訳への影響
次に、これらの特徴が翻訳にどのように影響を及ぼすのかを見ていきましょう。
①語順変更による混乱や誤訳
先述の通り、日本語(SOV型)と英語(SVO型)では語順が異なるため、翻訳の際に語順を整理しなおす必要があります。
このとき、目的語などに補足説明(修飾語)が多いと、語順を入れ替えるときに修飾語・被修飾語の関係が崩れ、原文に無い意味合いになってしまうようなことがあります。
例文を見てみましょう。
赤い大きなリンゴとサンドイッチが入ったバスケットがあります。
▼
「赤い大きなリンゴとサンドイッチ」が入ったバスケットがある
「赤い大きなリンゴ」と「サンドイッチが入ったバスケット」がある
「リンゴとサンドイッチが入った」赤い大きなバスケットがある
さて、どれが正しいのでしょうか?
翻訳者がどのようにとらえるかによって、文の意味が大きく変わってしまいます。
このように、原文が複雑であればあるほど、英訳する際の誤訳のリスクも高まります。
②「文脈」の補填による誤訳
原文(日本語)で主語が省略されている場合、英訳する際には必ず主語を補わなければなりません。
主語だけでなく、例えば「そのリンゴが1つなのかたくさんなのか、特定なのか不特定なのか」といったことも全て補う必要があります。文脈が読み取れず、誤った補填を重ねてしまうことが、誤訳につながってしまうわけです。
訳しやすいマニュアルを作るポイント
ここまでで、異なる特徴を持つ言語の翻訳の難しさが明らかになりました。
原文の書きぶりによって誤訳のリスクが高まる、というのは、とりわけ情報の正確性が求められるマニュアルの翻訳においては致命的な問題につながります。
もちろん訳しっぱなしにはせず、翻訳チェックという工程を挟みますが、翻訳の精度はチェックの効率にも影響します。まずは誤訳をなるべく減らすことが大切です。
誤訳を減らすには、英語の特徴を踏まえ、「あいまいな表現をなくし、過剰な省略を避け、翻訳しやすい文章」を作ることが必要です。
「翻訳しやすい文章」を作るには、
「文脈に頼らず、端的で、誤解なく伝わる文章・表現」にすることが大きなポイントです。
具体的には、
・一文一義を心掛け、一文を長くし過ぎない
・主語を明確にする(ユーザー以外が主語になる場合)
・適宜イラストを用いて表現する
といったことが挙げられます。
これは、シンプルに日本語のマニュアルを作る際にも言えることです。
分かりやすい文章の書き方については、下記の記事もぜひ参考にご覧ください。
まとめ
今回は、英語翻訳の際に注意したいポイントを取り上げてみました。
翻訳された文章が分かりやすいかどうかは、もとの日本語の文章がどれだけ分かりやすく書かれているか、そして翻訳を念頭に置いているかに大きく依存します。翻訳する側にとっても、原文が理解しやすければ翻訳もしやすくなりますし、最終的にユーザーにとっての理解を助けることにもつながります。
マニュアルの英語版作成・多言語展開を考える際は、まず日本語マニュアルの文章表現について、見直しをされてはいかがでしょうか。